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ねことしゃくしについて
猫と杓子について
織田 作之助
「NHKラジオ放送」1946(昭和21)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,269 字 · 7 页
これは日本人の持っている悪癖――つまり悪い癖でありまして、すぐ他人の頭でものを考えたがる。俗に「鰯の頭も信心から」といいますが、あんまり他人の頭ばかり借りてものを考えたり、喋ったり、書いたりしておりますと、しまいには鰯の頭まで借りるようになってしまいます。いや、僕は冗談に言っているのではない。真面目に言っているのです。
他人の頭でものを考えるというのは、つまり他人の着物を借りてまるで自分の着物のような顔をするということで、いいかえれば思想の借着であります。人類はじまって以来、多くの天才は僕らが借りるべき多くの着物を残してくれました。僕らは借着にことを欠きません。それに、借着をすれば、手間がはぶけて損料を払うだけでモーニングだとか紋附だとか一応もっともらしく立派に見えます。苦心惨澹して、手織りのみすぼらしい貧弱な着物を着ているよりは、どうも昔の着物の方が立派にはちがいありません。だいいち天才が残してくれたものですからね。しかしいくら敗戦して焼け出されたとしても、せめて思想の借着だけはしたくないものです。自分で考えたことを、自分の言葉で語りたいものです。