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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
くたびれたところへ俄におなかがはって大変眠うございます。森長さんへ電話をかけて、もうねてしまうわ。あした朝早くおきてまる一日二人暮しするのをたのしみに。二十八日から三十一日まで防空訓練で、夜明け頃起きて警戒しましょう、と廻覧板にありましたから二十九日は夜明けに目のさめる位早くねなくてはなりますまい。早ね早おきは大した規模で必要な次第となりました。では電話かけましょうね、ああでも、しきりに全く独特な工合にまつ毛のところが美しい二つの眼が浮んではなれません。光線の工合で何とくっきり面白く見えたでしょう。
二十八日
こんにちは。ちっともお早うではございません、もう十二時五分前よ。勿論只今御起床というのではなくて、きのう咲が立つので大乱脈のままになっていた台所を一時間ほどまとめて働き、その前に小鳥の世話、犬の御飯、胡瓜とニラの芽の見物をしたわけです。
いつもこうなのよ、咲が来ると実にゴタつき、帰って国がいなくなると、私は長大息をついて次の朝なかなか腰があがりません。可笑しいのね、主婦が帰れば却ってよく片づいて単純になりそうなものなのに、決してそうゆきません。