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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

11 一九四四年(昭和十九年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页

青空文庫

けれ共、実に型が多様のものだそうで臨床家には、試験ものですって。どうぞどうぞお大事に。お願いいたします。

寿は、やっと千葉に家をきめ、二十八日にトラックの手配まで、全部一人でやりました。あのひとも去年十二月からは一転して一人で万端とり計らう生活となり、苦労もいたしました。その家がね、つい近くに飛行場が出来るので、やがてはとりこわしとなるそうで、又別の家の話をまとめに上京の由、さきほど電話でした。こういう風ね、そこと思って、苦心の末見つけると一、二ヵ月で周囲の状況一変いたします。苦心の目的がふいとなります。すこし遠いところの家というのもそれでね。

八月に入ると、ここに本式のコンクリートの防空壕に着手いたします。それはいいわ。おそすぎました。間に合うかどうかの境です。しかし問題は寧ろ、口の方です。前便で申しあげました通り。一日一日とこのことが痛切となり、体力と経済力とのかけっこの露骨さが感じられて来て居ります。殆ど自然状態の生存競争に、最も高度な経済事情が人為的に加っていて、おそるべきものです。明白に恐怖という字がつかえます。ですから、家のこと=住むところの問題は、全く遊牧民的条件で決しなくてはならなくて、決して、近代的の交通問題によりません。