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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

11 一九四四年(昭和十九年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页

青空文庫

ナポレオンの功罪は大変大きいのね。思われているよりも大きいのね。マリ・アントワネット、カザリン・ド・メディシスなどは、所謂歴史上の定評を訂正されていますが、マラーなんかはどう見られているのでしょうね。本場には、いろんな人のメモアールなんかがあって、ユーゴーは「九十三年」は其等をよく調べて居ります。カーライルなんかあの歴史の中でどう見たのかしら。

バルザックはナポレオンを、一七九五年の舞台にのぼせていますが(暗黒事件)深く入っては居りません。

ユーゴーが、全輪廓から見てゆき、常に人間の進歩を信じる動機で其を見ているところは、ロマンティシズムの積極の面ね。笑い出してしまうのは、進歩に伴っておこる大波瀾は歴史の必然であって、その必然は神様だけがしろしめすところだ、という文句です。雄大なものね。どっしりそう云って坐っているのですものね。

こうしてみると、ユーゴーは、非常に大きく力づよく複雑な機械をその内部に入れてどっしりかまえている建物の壮大さであり、バルザックは、内に入ってはじめておどろきを新たにする機械そのものの巨大さ、相互関連の複雑さ、人間を駆使する力と云ったような異いがありますね。