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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

11 一九四四年(昭和十九年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页

青空文庫

自分というものが存る限り、このつなは切れないと。

親船は、自身のひき船の能力をよく知っているようです。劬り、しかし甘やかさず、水先案内に導かれて、沖ではラシン盤によって波濤重畳の大洋を雄々しく進行し、適当な時期には、ひき船をひき上げ自身の船体に搭載して、更に進行をつづけます。ひき船のうれしい気持は察するにあまりあり、ではないでしょうか。精一杯ひかれて進行してさえゆけば、沈没するほどのときには、大きいひろい船体にたぐりあげられて、安心してその舷側に吊られるというのは、どんなに仕合わせでしょう。親船もきっと可笑しく可愛いでしょうね、相当上ったり下ったり右や左へ揺まれながら、どこか陽気さを失わず、よろこんでひっぱられて来る子船を眺めて。裏表にかく方法はいかが? 確に不景気ですが、紙の貯蔵は少いから御辛棒下さい。

二十七日のお手紙をありがとう(きょうは十月一日)生存上の潤滑油というのは全くです、総てのいいことはそこからというところもあります、わたしは、そういう油のたっぷりさのために、香油づけのオリーヴの実のようなのね、くさりもせず干からびもせず。原始キリスト時代の人たちが、香油というものを特別に尊重したことをこの頃思って、その人たちの生活が、どんなにひどくて疲れるものであったかと思いやります。