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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
こうやってこの机使うのは、十六年の十二月八日の晩以来のことです。その時分は、次の室のずっと広い方に机おいて居りました。でも可笑しいものね。余り家じゅうどこへ行っても大ガタガタだと、ひろい室はいやになってしまうのね、ここへ、ベッドとくっついて置かれてあるの、なかなかわるくありません。わたしは妙ね、こういう風に特別な区切りや色彩のない簡素な室で、ゆったりした机の上にだけいくつかの愛物ののっているのがすきです。相変らず支那焼の藍色の硯屏とうす黄い髯の長い山羊のやきものの文鎮がひかえて居ります。この形で当分暮すのでしょう。
さて、やっとお天気になりました、きょうは暖くもあったことね。きのう、掛布団届けましたから、あす明後日にはおかけになれましょう。雨の夜こそ綿の厚いのが欲しい気もちがするのにね、今年こそ、と思ってあんなに早く出来しておいたのに、差入れられる日限が来たら雨つづきになってしまって。あの雨つづきは、暖流異変というのだったのよ、御存じ? いつまでも暖流が流れて来て寒流が来られないでいたんですって。だもんだから秋刀魚も、乗って来る潮が停頓してしまって、どっかで停電してしまったのですって。