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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
わたしはこの頃、自分の内心の幸福感に自分でおどろき、そのそよぎの活々した波だちに殆ど含羞を覚えるばかりです。それはわたしたちのいとしい、いとしい燈明よね、改めてゆっくり、では。
十月十八日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕
昭和十九年十月十七日
きょうは年に一度の十七日[自注14]ですから、紙も奮発していいのにいたしましょうね。いま午前十時すこし過ぎたところで、国が、用の電報を出しかたがた肴町の花やで菊の花を買って帰ることになって居ります。あいにくはっきりしないお天気になりました。でもゆうべは十時頃床につき、よく眠りましたから体も楽よ。
けさの新聞は、台湾の東方洋上とマニラの近海における戦果を公表して、戦史まれにみるところとして居ります。十七日に、こうしてしずかに暮せることは一つのたまものです。幾匹も頸輪をはずされて野犬となった犬どもが、一列になって、すがれた夏草の庭や落葉のたまった破れ竹垣のところをかけて通る様子は、これまでなかった今年の東京の秋さびですが、でも空のしずかなのはうれしいわ。たとえ曇っていようとも、ね。
国が帰って一束の菊をもって来ました。