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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

11 一九四四年(昭和十九年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页

青空文庫

昨夜いろんな話をふとしている間に、そんなことを痛感いたしました。ブランカのかくし芸なしに祝福あれ、と。

風に散るの中からの引用。わたしも感じをもって読みとった行でした。それはこの手紙のはじめに感じている非個人的、そして個人的、更に非個人的な高揚の感覚と等しいものです。アシュレが、誰かの句を引いたのね、スカーレットには一生かかっても分りっこない文句の一つとして。世田谷へかえす本もって参りました。間違わずいたしましょう。あのプルタークなつかしい本の形ね。(以下、この頃の郵便局のむずかしさを書いていて、墨で消されている。)

[自注14]十七日――顕治の誕生日。

十月三十日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕

十月三十日

きょうも亦雨になりました。よく降る秋ね。まだ秋空晴れて、という印象のつづくときがありません。日本の秋も北方大陸の秋のように、先ず毎日の雨で示されるようになって来たとでもいうのでしょうか。今頃ヴルヴァールの枯葉が雨の水たまりに散っていて、急に雲のきれめから碧い空の一片がのぞき、その水たまりに映ったりしていた光景を思い出します。夏の夜は白い服の人々やガルモシュカの音楽や声々の満ちていたベンチが、人気なくぬれて並んでいてね。