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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

11 一九四四年(昭和十九年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页

青空文庫

そしてアンは御亭主自慢を実に上手にいたします。一つだって直接に称讚なんかしないわ、もっともっとタクトがあって、リンドバーグと他の飛行家の談笑ぶりの間にリンディーの頸首のしっかりさのわかる好もしさのわかる会話を入れたり、北千島の濃霧にとざされたときのリンドバーグの勇戦ぶりを、全く飛行の側から、自分の恐怖の側から書いたりね。首ったけ、というところをいかにも器用に、読むものにもリンディーの好ましさと思わせるように話していて、一寸あれ丈のコツのわかっている女は、女流作家の会、あたりには見当りません。アンの精神はなかなか強靭ですし生活の幅もあります、こういう人が、ギャングに自分の子をさらわれて殺されたことを、自分の国の現代というものの実情としてどんなに感じたでしょうね。アンの心の底には、アメリカという社会について、解答のたやすくない疑問、或は質疑があるわけです。

アンのこの本をよんでも、アメリカの愚劣な宣伝マニアが分り、アンがへこたれて居ります。例えばね、アンが飛行機にのろうとして到着すると、婦人記者がつめかけて来て、「お二人のお弁当に何をお入れになりまして? 奥様全アメリカの婦人が知りたがっていることでございますわ」