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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

11 一九四四年(昭和十九年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页

青空文庫

平凡な読みては、自分とその対象を相い対にしておいたままで、ちょいちょい本へ出入りして、わずかのものを運び出して来て自分の袋へつめこんで自分は元のところにいるのね。この相異は、結果として、一冊のよい本についてみても、よんだ丈のことはあるようになった人間と、「それはよんだ」人間と、おそろしい違いのあるものを生み出します。クラウゼヴィッツを、あれ丈のものを、もう一遍よみ直すお約束は出来かねますけれども、本を読むということについてのわたしの反省も、おかげさまですこし深められました。本を理解する力というようなものはまだ皮相なものですね、人生を理解したって文学は書けないようにね。読みかたに創造的読みかたと反映的よみかたとあります、後者は幻燈とその種板よ、こわいことね、種子板がどくと、白いカーテンばかりがのこります。何と多くの作家が、うすよごれたカーテンだけとなってしまっていることでしょう。表現派、新感覚派、シェストフ、知性、能動精神、人間性、歴史文学等。そこを生き経た人は何人で、種子板のいれ入り〓し、かわりに視点をうつして来た人は何人でしょう。思ってみれば、一人の人間が、もし真実其を生き通るならば、其はそんなに急にいくつも通過し得ないでしょうね、人間精神の変ってゆくキメは緻密で年輪はかたいものですものね、本来は。