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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
定期便をさけたわけでしょう。もう今頃は、開成山の茶の間で、大チヤホヤの最中よ、きっと。わたしは、昨夜の警報でたださえ眠る時間が狂いましたから、大丈夫となると、先へ床へ入ってしまいました。けさ一寸出る前に起きましたけれど。あの二人はおかしいやりかたの人たちね、四日のときも女中のこと放っぽり出して行ってしまって、泣いてさわいだりするのをわたしが始末しましたし、今度だって留守居のこと、決まらないうちにパーと立って行ってしまって。行ってしまえば其っきりという風に二人ともやるのは、やっぱり似たもの夫婦というのでしょうね、苦笑してしまうわ。
今話のある留守居の人は、肴町の通りにスミレヤという電気やがあるの、気がついていらしたかしら。国が昔から出入りさせていた店です。そこに菅谷君という小僧さんがいてね、一種のペットネームのようにうちでは伝八さんと云っていたの、わたしはそういう名だと思っていたら、本名ではなかったのですって。その伝八さんなる菅谷君が年経るままに中僧となり、片腕となり、徴用となり、今は技術徴用でよそに居ります。伝八さんは、なかなか気風のいいところを見込まれると見えて、スミレヤの店からもっと大観音よりの方に春木屋という鳥やがあります、そこの娘さんを獲得して、尾久の近くに世帯をもって居ります。