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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
錠をきっしりかけて寝ることは危いし、サアのとき。その上このいじらしき三匹のタノンダゾヨが三月までにはいなくならなくてはならないのです、可哀想に。皮がいる由。
今この組長が一寸よっての話に、追っては、ここのうちも強制疎開ということになりそうです、うちの前に坂がありますでしょう? あすこから大幅の道をつけるのですって。動坂から肴町へ出た道と合するのでしょうか。そうすると、うちは坂の真正面という位ですから家から動坂の方へ何間かの幅にひろくなり、その間の何軒かは、影も形も思い出のよすがさえもなくなってしまおうというわけです。来年の半ばごろ迄に生活はどの位変ることでしょう。大したものね。焼けなくてすめば、そういう次第で、どの道、ここは消えるのでしょう、そう思えば哀れもまさる庭木立です。うちなんかは、もう既に荷厄介にしているのですからあきらめいいとして、先の方についこの間買って移って来たばかりの家があり、そこは国宝の美術品をもっていた人の由で、そのために、地下室のいいのがあって、この節はボーと云っても子供や年よりは知らずに眠っているのですって、その中で。そこもかかるらしいのよ。