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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

11 一九四四年(昭和十九年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页

青空文庫

高村光太郎は本でふところをふくらまして、小倉の袴にハンティングでその辺を逍遙していたものです。林町も変ったことね、そして今この通りでたった三軒ほどのこった古くからのこの家が又何とか変ってしまうと、全く昔日のおもかげは失われます。そして、この通りを占めるのは、何かの形に変った金の力だけというものね。

郊外へ家を見つけるについて、咲と私は、私も一緒と考えていますが、実際になるとどうなるでしょうね、タンゲイすべからずです。居る場所のない家しかないという工合かもしれないわね。それなら其のときのことと思って居ります。

すべてのものが、日々の目にもとまらないような変化の中で、何と深く大きく渦巻き変ってゆくでしょう、決して二度と戻りっこない変りかたをしつつあります。

セザンヌという画家は、人物を描くときなんか、椅子にくくりつけんばかりにして動くのをいやがったのですって、モデルが。あのひとの絵を見ると、しかし実に絵は動いているわ。ドガは描かれたものがそのものとして動いているが、セザンヌのは、画家の目、見かた、制作意慾が熾烈で、精神が音をたてて居ります。こっちからこれだけぶっつかるからには対象がひょろついていられてはたまりますまい。