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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

12 一九四五年(昭和二十年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,583 字 · 240 页

青空文庫

七月八日 〔網走刑務所の顕治宛 福島県郡山市開成山より(封書)〕

ここ二三日こちらはいくらか秋めいた空気です。空に雲が多く複雑に重っているのに山はくっきりと藍色に浮び、空の色は実にいいゴスです。ここでこの位ならば、その辺はもう秋が来ているのかしらと思います。尤も北海道は八月で夏は終りましょうけれど。わたしは、今、一寸した気候の変化についても、気ざやなりけりという風に敏感よ。そして、秋の来ないうちに、そちらに落付こうとしきりに思って居ります。

この前(六月十五日ごろだったかしら。それから十九日迄)こちらに来たときは、心痛一杯で気をもんでいて、ここの生活の空気にもなじめず気持が切のうございました。早く片づけなくては私の今後一二年間の生活に影響するような用が国のズルズルのためたまっていたので。そういうとき書いた手紙が、丁度そちらへの初便りとなってしまったのねえ。様々に印象ぶかい旅をなすって、やれとおちついて今のわたしのように風のたたずまいにも感じが動かされるようなとき、あんな詰らないくしゃくしゃ手紙御目にかけてわるかったことね。御免下さい。あの時は、ああやって書かなくては気が持たなかったのよ。