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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
12 一九四五年(昭和二十年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,583 字 · 240 页
とかくプレスト時代ですからこうしてアンダンテのリズムをきき、ところどころカンタビーレの交っている諧調は耳ばかりか心を休め、養います。では明日ね。
[自注9]塩の物語――塩分が身体に不足していて塩の美味さを痛感した話。
四月六日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕
四月六日
けさ、畦をこしらえた畑の土の上に雨がおとなしく降りはじめました。すこし足の先がつめたい位ね。庭の白い木蓮とコブシの薄紫色の花がいかにもきれいです、楓や山吹の芽立ちとともに。
きのうは、暑くなかったので、昼飯後、日本橋と新宿へ参りました。この頃久しぶりで地下鉄にのりました、去年の六月、青山へ墓参にゆくとき乗った頃には、まだ地下フォームも明るかったのに、今は暗く、車内もくらく、乗車券にペンチを入れず、映画館の入口でモギリの女がやっていた通り、あいまいな顔つきの女が、手先だけ動かして切符をもぎります。
三越のところまで乗り、何年ぶりかで内部をぬけ、ここでもびっくりしました。当然のことながら。ああいう場所に漲っていた消費的な光彩というものが根底から消滅して、それに代るものはなく、がらん堂な赤いカーペットの中二階にグランドピアノがありました。