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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
03 一九三六年(昭和十一年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,453 字 · 101 页
「己は顔が貧弱だから黒い方がいいね。どうもそうらしい。」そういう意見で、得意そうでした。一昨日は重治さんのところで午後を暮しました。栄さん夫婦が保田へゆく。旅費はある。でもあっちでね、というのでお米一俵送りました。面白いでしょう? 徳さんがかえって来たらあすこの夫婦も行くことになっているのですが、どうもまだいつかえるか分らないので――そのうち、秋になってしまう。
緑郎が今軽井沢の演奏会からかえって来ました。外国のひとが主に聴いたが、リズムのはっきりしたものが外国人には分ると云っていた、これは面白い点ですね。机の上には寒暖計があり。只今八十度強です。私は仕事部屋に、寒暖計だの湿度計だの磁石だのよく切れるハサミ、ナイフだの欲しい。今は寒暖計だけ。こういう程度に直接生活的な器は何だか生活慾を刺戟していい心持です。ところが時計はチクタクの大きく聴えるのなど大きらいです。あの夏になると眠りがちな時計を目立たぬところへ置いて安心しているから可笑しい。でも(エジソンでも時計はきらいでしたそうですからね)仕事の速度というか、進み工合というか、そういうものが結局二十四時間を計っているのだから。