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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

04 一九三七年(昭和十二年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,810 字 · 225 页

青空文庫

一昨夜の晩は豪雨がありました。割合におそくなってから。林町から自動車でかえって来たら、豪雨沛然たる夜のなかに、連って光っているあなたのところの電燈が眺められました。きのうは可笑しい日でね。くたびれてポケンとしていたものだから健坊とタア坊のお土産に買ったマリと、あなたのために涼しい下ばきを買ったのをタクシーの中に忘れてしまって、いねちゃんのところの玄関でター坊に歓迎の声をあげられて、ア、忘れたと又戸外へ出たがもとより後かたなし。でもマアどこかの子供とあの男がよその知らぬ人の計らざる御中元を貰ったのだからいいと思いなおしました。まして、その自動車はボロでしたから。

健造とター坊は 私が仕事にくいついていて二十日ばかり現れなかったら、この頃来ないね、と云い、二銭ずつ二人でためて私のところへ来ると云ったのだって。私はそれに心を動かされて、先ずマリを買って出かけたのに。――そのうめ合せにきのうは其から二人の子供をうちへつれて来て御飯をたべさせて、おひささんに送らせようとしたら、たよりなさそうにしているんで又私が送って行ってやって。健造たちはさしみがすきなので御馳走してやったら、その一切を特別なお志をもって猫にやりました。