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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

04 一九三七年(昭和十二年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,810 字 · 225 页

青空文庫

温泉宿は一軒で、そこの窓からは山の中腹で草を食べている牛も見え、この原はサイ河原と云ったと思います。

夏も大変うつくしい景色です。夜はこれも寿江子と帝劇で二都物語を観ました。当時のフランスの人民がよく描かれていませんね。

三月四日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 目白より(封書)〕

三月四日 快晴、些か風。第八信

きょうは水曜日です。私はいつも水曜日木曜日などという日は特別な感情で朝テーブルの上を見る。けさ、眼鏡をまだかけないで下へ降りてテーブルを一寸見たら、心待ちにしている例の封緘がなくてハトロン封筒が一枚あり。何だろうと思って手にとって見て、ハア、とうれしく、それでも実に実に珍しくて丁寧に鋏で封を切ってそのまま一通りよんで、又よんで、食事の間じゅうくりかえして出したりしまったりしました。可笑しいのね、何と可笑しいのだろう、一通の手紙でも見る毎に何かいいものが出て来そうな、何かよみ落しているような、もっと何かあるような気がして、まるで宝の魔法箱でも眺めるように飽きないのだから。この分量だけ手紙を下さるのにあなたがとって下すったいろいろの手数はよく分るので一層うれしゅうございます。