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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

では明日。

二月十九日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

二月十九日  第十六信

又ひどい風になったこと。二階は縁側なしだからしきりにガラス戸ががたついて居ます。

きのうはあれからかえったら、玄関に男下駄とインバネスとがあり、誰かと思ったら、いつか手紙に書いたことのある甲府のひと、盛に鶏の毛をむしっている。柳瀬さん中野さんの祝いに出席するために、八年目の葡萄酒と山鳩二羽と、私へは鶏をもって来て呉れたのだそうです。とりをつくるの、実は見ているのがいやなの。とりやへやるからと云ったら、肉をかえられるといけないとこしらえてくれました。汗をかいて。そのうち栄さん来。栄さんの芥川賞候補は候補にとどまり、貰ったのは中里恒子という人です。稲子さんが新潮賞の候補にあがったそうですが、こっちは「子供の四季」や「風の中の子供」をかいた坪田譲治と「鶯」その他農民文学をかいている伊藤永之介に行きました。こう並べるといかにもその常識性が新潮らしいでしょう。文学的文壇的常識というよりも、市民的常識が匂う。えらいと云われている人には先ず頭を下げて向ってゆく風な。千円ふいになったと大笑いしました。