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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
06 一九三九年(昭和十四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页
それでも、すてたものではなく、音楽の勉強生活が、生活である以上いろいろの台所的な用事ぬきの生活なんかある筈ないし、そんなのは不健全だと思うと云っていた。これ位のことでも現代日本の水準の音楽家の心持とは全く異種なのです、一般はその位低い。柳兼子はアルトで、宗悦の妻君で、決して関屋敏子ではない部で、その気位たるやおそろしいが、云うことには、「もう三四年も経って御覧なさい、演奏会以外に歌おうなんて気、まるでなくなっちゃうから」と、いとも楽しげに云った由。これは云われた人の直話です。そういう気分。寿江子は熱川で音楽史と世界歴史をすこし勉強して来る由。寿江子にはそういう真面目なところと私がおしゃく的と云って本気でおこる無智とが交り合っている有様です。女俊寛で、炭やき爺さんと山歩きして、きっと又のみにくわれたあとだらけでかえって来るでしょう。秋までには丈夫にしてやりたいと思います。それでも、もしかしたら一二年は郊外で生活した方がいいのかもしれない。勉強に出る日は一週に何度(三度ぐらい)ときめて。そうしてすっかり安全なように直してしまうつもりのようです。そうすれば私とは暮せない。