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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

涙は、私のむけたような心の上に落ちます。

ユリには、この人生に、揉まれるなりに揉まれつつそこからぬけて行くようなところより、頭を下げ、体をかため、それに直線的にぶつかって、それをやぶって前へ行こうとするようなところがあり、而も、ときにそれが体当りでなくて、体当りの気でだけいるときがあるのだと思います。『乳房』の序文の言葉は、一つの責任の感じもあって、そのようなものとしてまとめてゆきたい(「雑沓」について、ね)という希望をこめて書いたのでしたが。しかし、文学において、責任のある感じというその感じかたのポイントがいろいろなわけですから、やはりそこに甘えた、非現実的な自己評価がなかったとは、今の私の心持から、云えません。十年間に、作家として殆ど文学史的な意味での十分な仕事がないということは、身を刻まれる思いがします。今これを知ることは、だが、いいことです。何故なら、十年間のいろいろな経験が、身につかぬものはふるい落され、身にしみついたものはのこって、今は、その発酵の時期ですから。少くとも私の作家としての成長の過程から見て。そして、生活の具体的な諸事情から見ても。