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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

でも、あっちを根城としておけばやれないこともないでしょう。勤人の多いアパートが同じならよい。学生の多いところはこまります。どうせいれば誰かということは分る。一つ構えの中でのお客が多かったりしては。生活というものは生きているから、居るところに生活があるわけですから、あっちこっちせず、そちらに大部分暮すにはそれだけの条件が入用ですから、よくしらべましょう、(ひさが来月に入ってかえって来たら)そういう生活をやって見るということには興味があります。人々の中での生活というところが。机だの何だの鍵のかかるのにしなければなりません。親かぎでいくらでもいないとき開けて入れるのですから。誰が入るか、それも分らない。そこがいやね。一人はだからいやね。一つの家なら其だけはないが。空巣のほか。一番いやなのはこのことと手紙のこと。

毛糸足袋のこと、底が切れた話。切れてよかったこと。去年まるで底がいたんでいないのを見て、その底を撫でつつ、ああと考えたことを思い出します。切れたというのはうれしい報知です。春は、皆工合がはっきりしません。一年のうち、この頃から八重桜のぼってりと咲く時分私は一番苦しい時です。