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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

古今の文芸評論を読破したという学問性だけは、学問性でない。それを読んだことなくても、学問性はあり得ます、正常な生活と文学とを語り、判読し得る。そういう学問性にまでめぐり合えないものが、卑俗な学問性に反撥して、現象主義になり、批評家はいらないと壮言する作家を生むし、一方、そう云われるのも事更わるくないというような批評家を生んでいる。

私にも、どうやら学問らしいものの面白さが、わかって来たことをおよろこび下さい。この著者のものはこの前の手紙にかいた本を入れて、四冊よんで、こんど五冊目にとりかかっているわけです。実に多くを教えます。自分のわかって行きかた、丁度鳶のようと思う。下に餌がある。鳶はぐるりぐるりと外から大きい輪を段々せばめて行って、最後にはその餌にさっと降りる。何だかボーとしている。すこしわかる。段々わかる。わかる、わかる、そしてテンポ(内容に近づく)が早まる。こういうテンポも人間の全体のリズムで面白いと思います。外を撫でて字をよむ。ところどころ一寸突入る。やがて全体やや沈んで、沈んで、こんどは内からよむようになる。まだ内からよむところまで到達はして居りませんが、この頃は、フト気がついて、あらと思う、内側からよんでいた自分に心づくのです。