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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
06 一九三九年(昭和十四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页
盲腸を切ってから、(この頃)夜床に入ったとき、それから朝目がさめたとき、体じゅうをずーっとのばして脚をそろえ、踵に力を入れて実にいい心持に全身のびをいたします、何年ぶりでしょう。こんなに力一杯ののびの出来るの。いつもこれまで右膝を立てたり、左脚でバスの中で立ったり、迚もこんなのびは出来なかった。仰向いて、しんからのびて、横向いて、しんからのびて、裸虫のようにうねって、そういうとき、我々の詩集の頁が音をたてて翻るようです。いろいろな活字を見せながら。詩譚をきかせて下さい。ピム、パムからよろしく、随分あなたに帽子をなおして頂きたい様子です。では明日。
四月五日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
四月四日 第二十九信
きょうは、やっとぽっちりだけれども薬のおかげで、かぜの気分はましになりましたが、少なからず悲観して居るところです。かえりに新しい電車の方へ出たら、不図気がのって、それを横切って、「アパート」という案内で見ていたアパートをさがし当てて二つ見ました。雑司ヶ谷より。お話にならないので悲観しているところです。あと大塚よりに見るしかない。