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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

しかし、こんなにしてこねくって一つの家というものを八方からからんでゆく心持は後まで思い出すようなものでしょう。

家さがしの様々な心持。様々の情景。なかなか人生的です。これだから、家さがしや転宅したことのない人々の心持なんて、襞の足りないようなところが出来るわけね。

この頃の心持、腰をおとして、ついてゆくに価すると思います。何だかあっちこっちから、これまで見馴れない芽がふいているようで。何かが新しく見える、変にくっきりと。むけた心、そのむけたあとに生えて来かかる肉芽。人間の成長の現実のありようは何と其々その人々、その夫婦たちの足の下にふみつけられてゆくその道以外にはないでしょう。

この間の本には、文学運動の過程について。第三階級勃興当時の文学様式、その他文学方法論の問題、明治以後の文学思潮、文壇の風俗主義的傾向を排す等三十三篇、ヴォルガの船旅、ヤドローヴォ村の一日その他に書翰、年譜です。

松山へ行ったら何とかいう川へ行こう、松山には少年時代の苦しい思い出しかないというようなの。その同じ年の秋に書いたやや長い返事二つ。その手紙のおくり主の手紙はもとよりわかりませんが返事から察して、その二十歳か二十一歳であったひとの思索力について考えました。