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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
06 一九三九年(昭和十四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页
得たことも。本当にあれは奇麗と感じられました、五年の間春はああいう花を見て大きくおなりになったわけね。
さて、四月六日づけのお手紙、九日に頂き、返事きょう書くという珍しいことになりました。あの手紙に云われている歴史性のない抽象の人間性がない話、あれはいろいろ面白い(最も豊富な語義での)。全くよく人は本質的には何々だが、とか、それは原則的には云々だが、とそこに現実に出ているものについて十分突こまず、現象を仮象のように語る自他幻想癖をもって居りますね。一般の人々の内部にあるそういう癖の根は実に深い。決してカントを崇拝しなくても、そういう点では夥しいカントの門徒がいるわけです。こういう考えの癖が、癖として、身についたものの力でちゃんと見ぬけるということは、現実をどう見るか、それが即ちちゃんと見える上からのことだから。
自分の長所を理解さすことが出来たら、と私が書いたりする気持、それは論理上、短所はしかじか。では長所は、なんという風に対比させて考えたり数えたりしているわけでもないのです。然し、お手紙で面白く感じました。やっぱり、ともかく私は長所という一つの観念を短所と対するものとしての従来の習慣なりにしたがって、深く考えず表現したのですから。