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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
06 一九三九年(昭和十四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页
明日は不忍池を御覧になりたい由だから、そちらからずーっとまわって、もしかしたら林町へよって皆で写真を一つとるように手筈しようかと思います。写真は私、昔ヴェストなどいじったことがあった程度です。一枚は本式のがあってもようございましょう? 記念に。芝居のかえり二人がお送りして来るから、うち合わせて見ましょう。
林町の連中もこの間うちへおよびしたときも、今夕も、わだかまりなくおもてなししているので何よりです。林町の家、謂わば初めてゆっくりお入りになったようなものでね。先のときは、一度目はフィクションの最中で、林町の母が動顛してヒステリーをおこしてしまっていてしゃんとお迎えしなかったし、二度目は国府津にいてお母さんは信濃町だけ。全体から云って、些かいとまある心で、御滞逗になったのは今度初めてと申せます。私の張りきりかたもわかるでしょう。初めてのとき、お母さんは「もうどこも見たくなんかない」と仰云る。それを私がひっぱり出してね。「東京へいらしたのによそを見もしないでおかえりになるなんて、そんな負けた気ではどうなりましょう」と無理やり江井でおつれした。そんな工合でしたもの。