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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

ところが、いよいよ家へ運び込まれて見ると、その黒光りの立派さ! 黒光りの上に燦く大蝋燭の美しさ。音のよさ! 夢中になって、夜中まであらゆる出たらめを弾きつづけたことを思い出します。その頃は子供でも大人の教則本、それから練習用の『チェルニー』という本をつかいました。十二三でモツアルトのソナタを弾けば、その頃は大変珍しくて音楽の天分豊かなりと思われたものです。今では、教えかたがちがって、子供用の楽譜(オタマジャクシの大きいの)があり、小学三年から上野の音楽学校の幼児課へ通えます。それだけ水準がたかまって来て、音楽がしんの感覚に入って来ている、面白いことです。作曲だってもうじき、心から湧く音として描ける人も出るでしょう。そして現在の先行的作曲家が歴史的に見られるようになる時期もそう遠くはないでしょう。五十年も経てば。

五月四日づけのそちらのお手紙で、卯女ちゃんのこと、何か薬はあるまいかとのことですが、薬はないでしょうね。体質が神経質で不眠なのです。乳をのんで二時間ぐらい、普通の子供がぐっすり眠るとき目をあけたまんまボーとしていてうってもたたいても反応ない由。