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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
06 一九三九年(昭和十四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页
いくらか仕入れることの出来たこの薬を、大切に二粒ばかり口へふくんで臥てしまおうかしら。臥て、詩集でも眺めていたらこのカゼぬけてしまうかしら。御意見はいかがですか。小さき騎士の逍遙というのをよもうかと思います。すこしものういところのある騎士が、しずかな森の間や泉のほとりをそぞろ歩きしている、その姿はなかなかよく描かれていますから。立派な男の自然の気品、優雅さ、騎士の身にそなわる、それらの美しさをよむのが私は実にすきです。真に男らしい男の優雅さ十分の力や智力が湛えられているところから生じる優美さは、何と深い深い味でしょうね。そこから目をはなせない魅力でしょう。女でそういうだけの優雅の域に達している人はごくまれです。弱さ、しなやかさ、それは或魅力かもしれないけれども、十分足りているみのつまった、力のこもった美とは云えない。男の人間らしいそういう美を表現する可能をもっているのは音楽家ではベートウヴェンです。ワグナアは俗っぽくて、ヌメのようと形容した、かがやきの清らかさは表現し得ない。現代作曲家たちは、知的に肉体的に自身の男性を歪曲されているのが多くて、殆ど問題にならない。