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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

それからみそこしね、あのわくはよく撓う木ですが、それもなくなって来ていますって。案外のものがなくなりまして、どうも、ハイと申しました。

二十三日の花、高く匂う花であったのは本懐であると思います。その花の名の二字の、どちらへアクセントつけてお呼びになるのでしょう、いくらか長くひっぱるように名を呼ばれたとき花は花弁の一つ一つをふるわせつつ、静かにしずかにおさえがたい力で開いて行くでしょう。匂いのうちに一層深くおぼれながら。

バックの本、考えて居りました。「その年」のこと、あれそのものについては、懸念のないものですが、一般にふれてのこととして全く正当な重点の見かただと思います。これは、あながち単純なハピイ・エンドに終らないようなものでも、ハピイ・エンドに終れないことを、気分的に只もってまわる場合にも生じる文学上の危険ですから、明るさなどというものは、現代にあって複雑きわまったもので、窮極は、あらゆる暗さを経つつある、その経かたにあるだけとさえ云えると思います。最も立派な形では複雑をきわめつくした単純さのうちにあり得るだけです。そしてそれは、誰もの日常にあるものでないし、又手放しで現象的に生きて私たちが身につけ得るものでもない。