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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
06 一九三九年(昭和十四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页
あの家では、御老母[自注28]が胃ガンで秋まで保証出来ぬとのことです。気丈な婦人なので起きて出歩いてもいられるそうです。まだ二年ありますが、待ちきれずゆくというような歌をよんでいられるそうです。老人は元気だそうですが大変です。いろいろとお察しいたす次第です。医者の診断も咲枝のような例もあり、もし二年待てれば、実に僥倖でしょう。おみまいいたします、近々に。
それから『医典』の件。古本屋へ行って見ましたがあるのは十二年版です。これでは診断には大した変りはないが、新薬などまるで役に立たぬ由。買わずに来ました。本月末に出来るのを待った方がよさそうです。それは、いずれも速達のとおり。朝日の方はまだ返事ありません。大森の方申してやりました。栗林氏の方は今明日中に。大森の方十分はっきり申してやりました、今度は。
おや、又雨になって来たこと。これはしずかな雨ね。木の葉をうつ軟い雨の音。机の上には、アボチンがとって来てくれた蚊帖つり草、猫じゃらし。水引の花。山牛蒡の花とまだ青い小さい実の房などがささって居ります。きのう、アボチンは根岸のおばちゃん(春江。咲の姉)と、よしという女中さんにつれられて、生れてはじめての独り旅! で茅ヶ崎へ行きました。