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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
06 一九三九年(昭和十四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页
それにはなかなか工夫というものがいります。何しろよく話題にのぼるように、常に次善的なわけですから。でもユリはまめに工夫して、その次善的なものをも、私たちの本質的なたっぷりさをうつすに足るものとして、つくって行きとうございます。
明日は『婦人公論』のために、友情について二十枚ばかり書きます。『中央公論』に天野貞祐という新カント派の先生が、よい友情にめぐり会うことは運命的という風に云って居ります。人間の交渉のなかに生じる極めて複雑な、有機的な必然のあつまりが結果する単純さというものは、生活的なものなのね、哲学ではつかめないところを見れば。女としての私にある一すじな心、それは一見何という単純さでしょう。まるで近松が描いたリリシスムのようでさえあります。しかし、その一筋にこもるものの複雑さの比べるもののない条件はどうでしょう。その複雑さの隅々までを知りつくし評価しつくしていることからのみ生じる全く揺ぎようのない単一さ。これは実に面白い味いつきぬところですね。ああ、いつか「宮本武蔵」のなかのお通の「ただ一こと」をお話しました、覚えていらっしゃるかしら。友情だって土台は同じです。