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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

そしたらやっと納りそうなものになりました。フーと一息つき。それから出かけて、壺井さんのところへ二ヵ月ぶり位に行って、手つだいのことたのんで、珍しく夕飯御馳走になって、古本を見つけ出して、丁度ひどい雨の上ったときいそいでかえり。

きょうは今に、栄さんが来て口述をやってくれます。この口述では、随分古くから栄さんのお世話になっているのですが、面白いものね、S夫人のほうが近くてよかりそうなものですが、あの人とは決して出来ないの。あのひとの性質で。こちらで云う、その中に決して入らないのです。自分だけはなれて批評したり、腹に意見もったりしている。だから、一体になれず、いつも心理的抵抗がある。それが腹が立つ。駄目です。あのひとは全くその点独特ですから。こんなことでも、これほど微妙だから面白いものね。

明日一日日比谷ですから、どうしてもきょうのうちに片づける必要のものがあって。

一昨夜てっちゃんが見えました。奥さん、思いのほか大手術であったそうです、可哀そうに。どうなのでしょうね、子供ももしかしたら、あの康子ちゃん一人かもしれませんね。癌と同じに、幼時の細胞が皮膜のようになって組織内にのこっていて、それが成長するにつれ育ったり分裂したりして害をおよぼすのだそうです。