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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

峯子の兄が慎一を今流に動かそうとする。慎一もそういう風に今を生きたくはない。夫婦とも捨てみで生きる方を選んでいる感情で、終るという次第です。今日生活にあらわれる、若さ誠実さの一つの形としてのそういうもの、それは東京だけで何十万というサラリーマンの胸底にあるものでしょう。それは文学の中で、まともにあつかわれなければいけないものでしょう。軽井沢の秋の高原のそぞろあるきのうちに衰弱するのは、康成その他でたくさんですから。

『新潮』のは何をかくかまだ分りません。とにかく私は独言的小説はいやです。それがどんなに珍しい一つの才能であるにしろ、それはそれで自分は、人間が熱く埃っぽく、たゆみなく絡り合って生きているそういう姿を描き出したい。彫刻的にかきたい。立体的にね。その方向へ本気で船を漕ごうと思う次第です。自分はそういう風な内のしくみに出来ている。それを痛感します。短篇でもひろい音の響きのあるものがかきたい。タイプではなくてね。チェホフは傑出した作家ですが、人生というものをあの時代らしく類型化して描き、そのことではメリメやモウパッサンのように、テーマ短篇とはちがった世界を描きました。