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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

三味線をおひきになりましたって。何年ぶりでしょう! 結構ね。あなたから手紙も来て安心した、とその前のおたよりでしたが。その三味線のことはお母さん上出来、とほめてさしあげるつもりです。私がよく「お母さんは出来ないことがないが、たった一つまだ出来ないのは、気をゆっくりお持ちになること」と云って笑っていたから、きっとそのことも出来ることになさろうというのね。何か人の生活というものを沁々感じました。それから、時々の心のくつろぎというものについても。私から見れば、お母さんの、そういうおくつろぎの折々の気持というものは無限の背景をもってうつりますから。もしわきにいて、そんなにしていらっしゃるのを見たら、きっと涙がにじむでしょう。そういうところがあるわ。その小さい、無邪気な、謂わばその人の心でだけのくつろぎの姿は。

もうすこしすると大森の方から、ある女の先生の世話で派出婦が来て、おミヤさんはかえります。その女のひとは縫物が出来ることを条件にたのみましたから、私が仕事の間で下へおりて来ると、そこにはあなたの冬物が縫われているという、いくらか家らしい光景が現出するでしょうとたのしみです。