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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

どうも、そんならしいわね。それでも、私はやっぱり出かけるのよ、行かずにいることは出来ませんもの。わたしの心持で、そんなこと出来ないもの。でも勿論それは、一つもあなたへのオブリゲーションではないのですから、それは十分にお分りになって。

花をあげた細君は大阪へ行ったのですって。義弟のひとが事務所をこしらえて、そこにつとめるようにしたのでしょう。この間はどうしよう、というような話だったら急に行ったと見えますね。私は知りませんでした。そしたら十四日に岡林氏に会って、そのこと云っていました。これから先の永い生活だからやはり工場で九十銭位ではやり切れないでしょう。只雰囲気ではどうでしょう。その若い義弟は経済の方の、顧問のような時局的経済家で、日常生活のなかでの話題は何千何万何々というわけです。細君に、「本は何でも買うてやるから勉強せい、いうのやけど、せん」と云っている。勉強する必然の雰囲気と生活の現実の質はちがって来ている。それを気づいていないのね。そして、きりはなして勉強しろと云ったって、「うちの亭主は稼ぎがいい位にしか思っとらへん」ということになるのね。