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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
安全地帯の端の赤い標識柱のわきに身をよせて若い女のひとがぼんやり立っているうしろからヒョッコリ男が現れると、私は何だかふつうでない――用心する瞬間の気になる、そんな銀座がわかるでしょうか。殆どすべての店は厳重に表戸をおろして居ります、夜店がマバラに、もうしまいかけの時のようにポツリポツリとあって、はだかの電球の光が低く流れています。似顔絵切りぬきが、覆いをかけた灯の下で街角にいて、たかっている人がすこしある。八時すぎ、日曜日、でももう深夜のようでフラフラしている人はない様子でした。出たらきっと驚く、と云われていたけれど、全く強い印象をうけました。銀座の表通りのような都会的消費の町は、こういうときほんとうに早く表情を変えますね。昼間は今でもやっぱりさもしきハイカラーがふらついているのでしょうが、すこしくらくなり、たのしみがなくなると、こそこそとどっかへ消えてしまう。戸塚や動坂や、ああいう、生活している人間がいる人間がある以上店も入用というところの方が、雰囲気が病的でなくて日常的でずっと健全であり人間らしさを保って居ます。銀座で何も実質的買物をする必要のない人々が東京に何十万といます、だから、銀座なんかが真先にがらんとするのは自然のなりゆきです。