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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

10 一九四三年(昭和十八年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页

青空文庫

けれどもいやなの。哀れで腹立たしいの。どうして自分の初めの一歩の逸れが一生を誤らしたと真面目に思わないのかと。

昔の良人の兄弟とその妻たちは類例の少い人たちで、本当の同胞思いです。長兄の奥さんは私の身を思いやって見舞まで心配されました。そういう人たちの篤い心からはなれたのは、その女の人の自身の責任ではないでしょうか。

こんなこともあるし、又昔印刷工だった小説家が、郊外にひっこんで、瓦一枚ずつ書いてためたという家を建てたとき、周囲はそれを軽蔑しました。けれどもこの作家は自分の弱点を生活者らしさで知っていて、伏せの構えをはじめからやって、現在も肱でずるように「日本の活版」というような小説を書いています。印刷技術の発達史のようなものらしい。その時分軽蔑した人が、現在になって二百円の着物だタンスだ家だと、その人が引越したよりもっと田舎にさわいでいるという姿を思い合わせ、私としてはやはり感じるところがあります。人々の姿は、実にくっきりと浮き彫りにされる時期があるものね。そうやって、私はこうやって坐っているぐるりにすぎないが、いろいろ眺めて、学ぶところも少くなく、大切な時期の私心から出発して一歩が、どんな結果を招くかということについても軽く考えては居りません。