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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

10 一九四三年(昭和十八年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页

青空文庫

やや暫くしてもう夕方になり、私は何かよんでいたら、上り口でガサゴソ云うの、そこに太郎の本箱があるの。「そこにいるの誰だい?」分っていたけれど、きいてみたの。案の定、太郎なのよ「腕白小僧」と返事しました。そこの椅子に太郎にかしてやってあった掛布団が干してあった中に埋りこんで、みそ漬をしゃぶっている。「本だすの? 机が邪魔ならどけるの手伝おうか」「ううん」そしてのぞいて、こっちへ来て、私のよんでいた本について何か喋って、二人で暫く話していました。そしてやがて「もう僕行く、ね」とおりて行った。

私は胸の中があったかあくなってね。本当にうれしいと思いました。大体太郎は二階へ来ません。ごくごくたまにお八つをねだりに来たりする位です。ああやって来たにはそれだけの気持の動機があり、私が打つほど怒った気持が、何か子供なりにのみこめたのね。そうやって怒られ、何かうなずけ、いい心持になり、詫びるというような大人の形式よりずっと人間らしい親密な頼れる思いが湧いたのね。そして二階へ来たのね。夕飯のとき、二人きりのとき私は「太郎も大きくなって段々ものがわかって来てうれしいよ」