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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
逆にいうと、人はどんな人でも、命をすてるときには、その命に、自分で納得し得る最大の価値を感じて死のうとするいじらしい、人間らしいところをもっているのね。無駄に流れて来た時間の或る瞬間、駭然として無駄であり得ない死を感じる人間の心は、非常に私たちを考えさせます。そういう瞬間に会わないと、活の入らないような心で、作家たちさえも生きて来ていて、そういう瞬間の自覚を人間性の覚醒、生の覚醒という風に感傷するのね。昔、川端康成が、北條民雄の癩病との格闘の文学を、ヒューマニズムの文学、生の文学と云って、私は川端の甘さを不快に思った激しい心を思いおこします。命の自覚の内容も何とちがうでしょう、生物的な脅迫がないと、命はそんなに自然に、そのものとして人間を押しつつんでいるとも云えるのね、きっと。ゴーリキイの初期の「人間の誕生」という小説など、そういう点のロマンチシズムの文学ね。
島田でシボレーをお買いになった由。乗物に不自由させぬ、とは何と大したことでしょう。(このごろは、目のために、速く動くのは苦しくて電車専門ですが。)私は、でも、島田へ行っても、商売用のそれの御厄介にはあんまりなるまいと、今から考えます。