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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
この伯父はもう七十でしょう、昔ベルリンで父とこの義弟とが一九〇四年代のハイカラー姿をうつした写真などもあり。一番可愛がられた伯父です。妻君運がわるくて、一番はじめのお鷹さん(父の妹)は、ヴァイオリンをやったりして一番風情のこまやかな人でしたが、二人の子をおいて死に、二度目のお菊さんは六人ほど子をおいて死に、三人目のひとは、名も覚えて居りませんが亡くなり、今四人目の妻君です。そういう工合で、総領息子とほかの子と折合いがよくない上、細君が段々下落して来て(心や頭が)何ともそこをちゃんとやれなくて、なかなかなのよ。伯父さんも家庭の内では私たちに諒解のつかないやりかたもするらしいし同時に傍でわからない寂しさもあるのでしょう。四人目の細君には会ったこともないのよ、今度行けば初対面なの。お茶の水出の人ですって。案外、マアと云われたりするのかも知れないわね。
そんなこんなで、ブランカこのところ一寸「雑事に追われ」の形です。しかし大体の傾向は大変よくてね。この間うちの精神緊張と何とも云えない震動は、案の定何となし新しいところへ私を追い出しました。うまく云い表わしにくいのだけれども、私の中で芸術家がモラリストを超克したとでもいうのかしら。