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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
そこを行くしかない、と。そこを行くということを、作品的に云うと、「伸子」以後をかくということです。断片としてあちこちの角度から試みられてはいましたが。
永年かきたくて、何だか足の裏にしっかりした地盤が感じられなくてかけなかった伸子の父の最後の前後を一区切りとして先ずかきます。それから、「おもかげ」の部分のかかれていない面、伸子、母、弟、時代と三つのものを、全体のかかわり合いの中でかきます。
それから書きたいテーマがいくつかあるのよ。凄い景気でしょう。ブランカが、紺絣の筒袖着て、兵児帯しめて、メリケンコのグチャグチャしたの(名もつけ難し)をたべて、財布に五十二銭もって、そして斯くも光彩陸離なのを、どうぞどうぞ扇をあげて下さい。こうやって、私は生きている、からには、私の作品をかくのは至当です。一杯の力のこもった倍音の美しい彫刻的な作品をかくのが私だとすれば、それ以外に何をかくべきでしょう。
いつぞや小説を集にのせるのせないで、私は、重吉の千石舟ですから沈みませんと力んで、すこしあなたに笑われてしまったけれど笑われてよかったのね。あすこで笑われて、ホイ、と思って、それから又ごねごねこねまわしているうちに、私の俗気を日本がふっとばしてくれたというわけでしょうか。