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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

10 一九四三年(昭和十八年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页

青空文庫

だからあんなにだらしない歌を紫式部にたてまつったりするのですね。荷風のあくどさはペンキ絵ではないわ、せいぜい水彩かパステルね。谷崎のはペンキ式です。春夫の生きのよかった時代がペン画に淡彩をほどこしたの。

荷風のこの「気分を味う」傾向は、年とともに傍観的となり、又薄情ともなり「※(「さんずい+墨」、第3水準1-87-25)東綺譚」「つゆのあとさき」等傍観そのものが文学の敗退を語っているようなものになるのだと思いました。

谷崎の方は、根が単純な官能に立っているから、年をとるとあくが抜けざるを得なく、あくがぬけたあとにのこるのは常識で、念仏っぽくなるという仕儀です。

日本の近代文学におけるデカダンスというものもこれまでの評論は、どこまでつきつめているでしょう、肉体に対してだって谷崎なんかつまりキレイなものをキレイとして見ているので、ストリンドベリーの肉体の描写の美しい動物らしさは一つもないと思われます。私はバネのゆるいおぼれかたはきらいよ、ね。

きょうは午後じゅう書いてしまったのよ。

もう暗くなって来ました。階下に干しておいたあなたの袷、誰かいれてくれたかしら。