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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
明治文学史の専門の勉強をしている人にきいたら、そういうまとまった仕事は、まだ一つもない由です。日本文学史はあるのね、でも日本文学の精神史はありません。文学評論史は久松潜一かのが二冊ありますがそれは、文学論の歴史的(そうじゃない)年代記的集積配列で、もののあはれ、わび、さびと、王朝から徳川時代へ移ったあとを辿っていて、しかし、文学精神としての追求はありません。幾人ものひとが一生かかるだけの仕事が、何と未開拓のまま放置されているでしょう。近代及現代文学は勉強家をもたなすぎますね、里見※(「弓+享」、第3水準1-84-22)のように、小説は勉強で書くものではない、という作者気質がどんなにつよかったかがわかります。文芸史家なんて謂わば一人も居りません。将来の日本文学は克服すべき貧寒さの一つとして、そんな面ももっているわけです。どんどんと気持よくつよい歯をたてて勉強してゆくような気魄ある人物を見たいものです。
紙がつまってしまったから、又つづきは別に。
十一月二十二日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕
十一月二十二日
もう手紙に白い紙を使うということは出来ないのかもしれませんね、文具やに封筒はあるけれども帖面も書簡箋も何もなしとなりました。