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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
旅にやんで夢は枯野をかけめぐる、という句を卑俗には、超人情のように云うが、本当は、芸術というものが常に限界を突破しつつあるものだということの感性的な表現――そこに芭蕉の時代の武士出身者としてのニュアンスが濃くある表現――ではないでしょうか。芸術家として、芭蕉は勇気がありました。あの時代に、夢は枯野をかけめぐる、と表現されたものが、時をへだてては、わたしが今、この紙の横においてよみつつ書いている、そのような忠告やはげましとなっていることの意味ふかさ。後者を、芸術のそとのことのように思う、非芸術さ、或は職業によって固定された感受性の鈍磨。
もしや、もしや、私たちの貧乏は分りつつ、ユリ、とお考えになると、何だか福相がかって感じられる、という笑止な滑稽或は習慣があるのではないかしら。どうかして、私は、自分の福相が、そういう由来ではなくて、もうすこしは広い、そして形而上の理由によって、明るく、笑いと確信とを失わないものであるということを、くりかえしなく、明瞭にしたいものです。私のぐるりについてジリとなさると、いつもそれが私に向って出るというのは何だか、しょげるわ。