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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
フーシェは、バルザックの方が生きた大した冷血漢、非良心な政治家の典型としてかいて居ります。ツワイクはセンチメンタルです。フーシェという冷血な裏切り者、奸策という風にしか明察も明敏も作用しない男を、裏切る情熱しか知らない、謂わばプレドミネートした力に支配される人間という、観念的なみかたをして居ります。バルザックの方が頭脳強壮ね。フーシェをひらく合鍵というようなものに拘泥しては居りません。山嶽党の失墜、火の消えかかる時代、ナポレオン、ブリューメル、イエナの勝敗と、たてつづく大動揺のフランス政情の間に、いつも内外に機をうかがっている亡命貴族、それが戻って来て、自分の掠奪物をとり戻すことをおそれている所謂共和主義者たち、恥などというものの存在しない保身術などの恐ろしい迅風の間に、いろいろの歴史的うらみや背景が一人の出世の道にたたまって来ているという風なフランスの当時で、(ギヨチンに賛成しないと命が危い、一寸たったら、その時代のその身の処しかたが物笑いになる(ナポレオン時代)更にそのはじめのことで、命があぶない(王政復古)というめまぐるしさの間で、)全く冷静な、純情など薬にしたくもない政治家のフーシェ、タレイランなどが、今日の人々の日常では想像の出来ない悪業に平気だったということは分ります。