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ばくおう

獏鸚

海野 十三

「新青年」博文館、1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,493 字 · 33 页

青空文庫

「目的だって? それは密書事件の状況から推して考え出せないこともなかろうと思うんだが……」

「そうだ」と帆村はいきなり椅子から立って部屋をぶらぶら歩きだした。「じゃ、君に、この密書に纏わる事件を一と通り話をしよう……」

それは私の最も望むところだった。

2

帆村はポケットに両手をつっこんでぶらぶら室内を散歩しながら、誰に話しかけるともなしに密書事件を次のように語りだした。

「昭和十年四月二十四日の朝刊に、上野公園の動物園前の杜の中で、一人の若い男が刺し殺されていたことが出ていた。被害者の身許を調べてみると、もと『暁団』という暴力団にいた錨健次こと橋本健次(二八)だということが判明した。暁団といえば、古い伝統を引いた江戸生えぬきの遊人の団体だったが、今日ではモダン化されて若い連中ばかり。当時の団長は江戸昌といってまだ三十を二つ三つ越した若者だった。――そこで錨健次は誰に殺されたか、何故殺されたかという問題になったが、ちょっと見当がつきかねた。ところが丁度僕が警察へ行っているときに名前を名乗らぬ不思議な人物から重大な密告の電話がかかっていた。『錨健次は、もとの指揮者江戸昌の命令で団員の誰かに刺し殺されたのだ。