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たまとりものがたり
玉取物語
久生 十蘭
「別冊文藝春秋 第二十四号小説二十人集」1951(昭和26)年10月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,495 字 · 19 页
茶屋芸者は何事かと恭しく頂戴に及び、さて御包をといて「まあ、たった」と言ったきり、開いた口が塞がらなかったという話がある。またいつかは深川の平清で遊ばれての帰り、お家来に、「うちゃのう、歩いて帰りたいが、道が判らんでの、そちが跡からついてまいって、間違ったら教えてくれや、一遍歩いて見たいでのう」とおっしゃって、仲ノ町を歩いて帰られた。つまりは帰りの駕籠代を惜しまれたので、そういう細かい掛引をされたのだと知れた。一事が万事で、山添の見るところは大凡外れはないものと思われたが、こういう御容態では、古医方家の山添の手に負えない。殿様のふぐり玉が鵞鳥の卵ほどになったら進退をきめようと覚悟していたが、小田原の本宿で予想通りの大きさになったので、はやこれ迄と、夜にまぎれて逐電してしまった。
殿様は入府になるなり、下邸に逼塞し、元日の参賀にも、十一日の具足祝いにも上らず、大物を抱えて鬱々としてござった。
極月の二十八日に江戸へ帰りつきけり。道すがらも痛みつつ、帰りての後は、歩むことさえわずらわしく成り、垂れ籠めてのみありける。多くの医師を招き、種々、よしということの限りをつくしたれど、ふぐり玉、日に日にただ大きうなりもて行くにつけて、折々、痛み悩むこと更にやむときなし。