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がんぐ

玩具

太宰 治

「作品」1935(昭和10)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,362 字 · 9 页

青空文庫

「おや、この子はまたおしっこ。おしっこをたれるたんびに、この子はわなわなふるえる。」誰かがそう呟いたのを覚えている。私は、こそばゆくなり胸がふくれた。それはきっと帝王のよろこびを感じたのだ。「僕はたしかだ。誰も知らない。」軽蔑ではなかった。

同じようなことが、二度あった。私はときたま玩具と言葉を交した。木枯しがつよく吹いている夜更けであった。私は、枕元のだるまに尋ねた。「だるま、寒くないか。」だるまは答えた。「寒くない。」私はかさねて尋ねた。「ほんとうに寒くないか。」だるまは答えた。「寒くない。」「ほんとうに。」「寒くない。」傍に寝ている誰かが私たちを見て笑った。「この子はだるまがお好きなようだ。いつまでも黙ってだるまを見ている。」

おとなたちが皆、寝しずまってしまうと、家じゅうを四五十の鼠が駈けめぐるのを私は知っている。たまには、四五匹の青大将が畳のうえを這いまわる。おとなたちは、鼻音をたてて眠っているので、この光景を知らない。鼠や青大将が寝床のなかにまではいって行くのであるが、おとなたちは知らない。私は夜、いつも全く眼をさましている。昼間、みんなの見ている前で、少し眠る。