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げんだいのさじゅつ

現代の詐術

坂口 安吾

「個性 第一巻第一号」思索社、1947(昭和22)年12月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,471 字 · 25 页

青空文庫

食慾を感ぜぬ。これは味覚の問題だ。犯罪の問題ではない。犯罪は誰の心にも住んでいる。

人間はみな同じものだ。総理大臣が片山氏なら、盗姦殺人小平氏、死刑になっても小平氏でなければならぬ。東条英機氏でなければならぬ。

人間性は万人に於て変りはない。罪人に於ても聖人に於ても変りはない。この自覚の行われざる社会に於て、いかなるカミシモをつくりだしても、折あれば中世の群盗精神へ逆転する、それだけのものにすぎないのである。

★

私はいわゆる人情という奴が好きでない。私はタバコの行列で人情的横流しと隣組座の横暴になやまされたが、私の近所の病人の爺さん婆さんのやってる一番小さなタバコ屋、配給がよそが五百、少くて百というのに三十だの二十しかないような店、こゝの老人がどういうわけだか私に同情して、ある時私にソッと云った。いつでもおいで、キンシをとっておくから、と。そして、どこが悪いのかネ、と云ったが私は返事をしなかった。

私は病んではなかったけれども、戦争中はまったく栄養失調だったかも知れない。何一つ特配というものがない。主食にカボチャや豆ばかり食い、一ヶ月に一度イワシを食べさせてもらえば大したものだという状態で、タバコ屋の老人は私を病人と思って大いに同情をよせてくれたものらしい。